まず、下の図をご覧下さい。あなたは不動産の売り買いは、税務上、どの時点で認識すると思いますか?

個人税務では、不動産をいつ買った・売ったは大問題!
不動産を売った年は、所得や税額が大きくなるので
「去年契約して手付を払い、今年引き渡した」
といったような年をまたぐ取引については、譲渡所得の申告が今年分になるのか来年分になるのか、非常に悩ましいですよね。
また、個人が不動産の譲渡や取得を行ったときの時期の認識の問題は、税務上とっても重要なポイントなんです!
まず、なぜ重要なのかについて解説します。
譲渡(売った)時期で変わる税率!
不動産を譲渡した(売った)時に課せられる税金の税率ですが、ざっくり言うと、短期の不動産保有には高い税率が、長期の保有には低い税率が課されます。

短期保有不動産の譲渡は、取引自体が金もうけや土地転がしの元凶になり、投機的意味合いが強いことから、高い税率となっています。
これに対して長期保有不動産の譲渡は、居住用や事業で使用していた不動産の譲渡であることが多いので、低い税率となっています。
何をもって「短期」と「長期」に分けるかですが、譲渡したその年の1月1日における所有期間が5年以下である場合は短期、5年超の場合は長期となります。
したがって不動産を売却する際に、この期間が5年以下か5年超かギリギリな場合には、取得の時期や譲渡の時期がいつなのかが、とても重要なポイントになります。
この他に、期間の定めがある譲渡所得に対する優遇措置の適用を受けたい場合などにも、不動産の取引の時期がいつになるのかは、とても重要な問題です。
ですから、年末の時期になると、「売却時期を来年にしたい」とか「売却時期を年内にできないか」といった声をよく聞きます。
ここまでで、不動産の取引がいつ行われたかの認識が、いかに税務上重要な論点かおわかり頂けましたか?
【原則】「引き渡しの日」が不動産取引が行われた日
さて、ここからいよいよ本題です。
所得税では、取引の認識(いつをもって譲渡や取得があったと認識するか)は、原則、引渡基準です。

資産の引渡しがあった日とは、資産の譲渡当事者間で行われるその資産に係る支配の移転の事実(例えば、土地の譲渡の場合には、所有権移転登記に必要な書類等の交付)に基づいて判定します。
代金の決済は関係ないことに注意しましょう。
【例外】「契約の効力発生の日」をもって取引日とすることもできる!
ただし、所得税では例外として、納税者の選択により、その資産の譲渡に関する契約の効力発生の日(一般的に売買契約締結の日)を譲渡の日とすることも認められます。

ただし、契約基準を選択しようとする場合に、その契約内容に
「停止条件」が付されている場合には契約基準を選択することが認められない場合があるので注意が必要です。
(停止条件付契約とは、例えばA土地の譲渡契約に『B土地を取得することができたらA土地を譲渡する』といった表記があったとしますと、契約効力の発生日は、売買契約締結の日ではなく、B土地を取得することができた日となります)
また、新築マンションの購入のように、契約日に建物が存在していなかった場合も、契約日をもって譲渡日とすることはできません。
なお不動産の売買の契約の成立については、判例で、売買契約書で定められた手付金の授受がされていない場合は、売買契約の成立要件が満たされておらず、契約が私法上成立していない、という考え方が示されているので、契約の効力発生の日の判定については、契約書の契約日とされている日だけを確かめるのではなく、手付金の支払い条項の有無、それが有る場合はその履行の有無を確認することも必要です。
ここまでマスターできましたか?(^^)それではケーススタディです。
譲渡日の判定に【例外】を使うと有利なケース
今年で期限が切れてしまう譲渡所得に対する優遇措置(措置法)があったとします。もしくは、来年から税制改正で、税率がアップしてしまう…なんてことがあったとしましょう(実際に最近、復興特別所得税の導入なんてこともありました)。

今年売買契約を締結し引渡しが来年になってしまう場合に、原則を適用すれば譲渡の時期が来年となってしまうので、税金が高くなってしまう!
こういった場合でも、契約基準を選択することで、年内で期限が切れてしまう時限立法の適用を受けたり、低い税率で申告することが可能になる場合もあるかもしれません(相手へ引き渡すことが要件だったら、ダメですが)。
ただし、上でも述べたように、停止条件付の契約の場合には必ずしも契約日=譲渡日にならないので、くれぐれもご注意を。
取得日の判定に【例外】を使うと有利なケース
(取得)平成21年10月に契約、平成22年1月に引渡しを受けた
(売却)平成27年の2月に引渡し譲渡した
この場合、平成27年の1月1日が保有期間判定の基準日となります。
原則を適用し、平成22年1月を引渡しの日とすれば、保有期間は5年以下となり、短期譲渡所得となってしまいます。

しかし、例外を適用し、平成21年10月を「取得の日」とすると、保有期間は5年超となり、長期譲渡所得とすることができます。

保有期間が5年どうか微妙な場合には、契約日や引渡し日をよくよく確認し、保有期間を長めにできないか検討してみましょう。
まとめ
不動産に関する税務については、引渡し日イコール譲渡(取得)日、と思い込まずに、場合によっては、契約日を譲渡(取得)の日とすることもできるということは、ぜひ覚えておきましょう。
それにより、あなたの税額がガラっと低くなるかもしれません!
また、他から購入した不動産を売却する場合には、取得時期の判定についても契約日と引き渡し日の選択が認められるので、取得時期を契約日とし、譲渡日を引き渡し日とするなど、各々の判定の基準を変えることも可能です。
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